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2016.10.29 Saturday

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ホーガン 「星を継ぐもの」感想

2011.09.07 Wednesday

ホーガンの「星を継ぐもの」読み終わりました。

月面で発見された真紅の宇宙服を着た5万年前の人間の死体。
さらに、遠く木星の衛星ガニメデで発見された巨人の遺体を載せた宇宙船。
その謎に挑むことになった主人公が、様々な矛盾を解いて導きだした答えとは……

純然たるハードSFなんですが、読書後の余韻は、良質なミステリーを読み終えたのと同じような味でした。
安っぽい自分のSF感で、この本のあらすじから物語を想像していたのは……

・異星人と遭遇するも、価値観の違いからドンパチ
 →主人公の活躍で人類の大勝利!!
 →あるいは和解しちゃって感動の別れ

というような失笑もののイメージだったのですが、
その発想がいかに薄っぺらいか思い知らされました。

今までの人間の歴史常識ではありえない5万年前の死体。
この死体が抱えた矛盾が、科学者の様々な見解を生み出してうんざりするような議論をし始めるのですが、
主人公のハントは、正確な要素をかき集めて"推理"し、理論整然とした結論を導く天才なんですね。
ハントが頭の固い科学者たちの意見から、びっくりするような、しかし正しい結論を導く様は、
まさに名探偵の推理を堪能するような感じで、ミステリ好きな自分には楽しく読めました。
さらに、その導きだした答えから新たな謎が生まれるので、ハントと一緒にこの謎へどんどん引きこまれていきます。
これは、主人公というキャラクターの配置が絶妙なんでしょう。
また、この頭の固い科学者を代表するような生物学者ダンチェッガーがこれまた良いキャラクターで、
最初気が合わない二人が、共通の目的をもって議論するうちに、
互いに尊敬し合う存在になるというのも、ある意味理系の男らしい友情でちょっとニヤニヤしてしまいました。

プロローグの、月面上での人間と巨人との短いやりとりが、
本編で謎を解くうちにハントが感じ始める5万年前の人間への共感を、読者により一層かきたてるのも良いですね。
5万年前の死体と巨人の謎の答えは読んでいる途中でほぼ推測できたのですが、
そこの至るまでの過程でとてもロマンを掻き立てられるので、
最後の結末が明かされた後に良い余韻が残ります。

ホーガンの作品は、最初に長編の「仮想空間計画」、その後に中編の「時間泥棒」と
ややマイナーな2作を読んだことがあったのですが、
SF的ロジックの確かさと比べて人間描写の淡白さが目立ってなんだかなぁ……という印象でした。
しかし、「星を継ぐもの」は、SF設定の面白さだけでなく、
謎を解く過程から読者のロマンを掻き立てるその構成が素晴らしく、これがホーガンの実力かと感心しきりでした。
ハードSFという言葉に拒否感を持つ人にこそ、一度読んでもらいたいですね。

あと、ネットの感想で「翻訳が読みにくい」という意見がありましたが、
理論整然とした思考を持つ主人公の雰囲気を過不足なく表現できていますし、
ハードSFらしいクドさもなくてむしろ良い翻訳だなと思います。

先週小松左京の「果しなき流れの果に」を読んで、SFというジャンルの奥深さを感じましたが、
これまた評判に違わぬ良いSFに出会えたなと思います。

新興宗教オモイデ教 感想

2009.11.03 Tuesday

忘れないうちに10月に読んだ小説の感想を書きます。
アニメ感想はもう少しまってね!

 今回選んだのは大槻ケンヂの「新興宗教オモイデ教」。元々僕は小説をまったく読まない期間が3ヶ月続いたり、一方で1週間に2冊以上のペースで読んだりペースにかなりばらつきがあるのですが、最近また小説を読むのがおっくうな時期に入ってしまって、気軽に読めそうなものをということでさよなら絶望先生にも曲を提供しているオーケンの処女作を読んでみようと思い立って借りてきました。
 ストーリーは、周りの人間を「誰かがジルバを踊りだしたら全員で踊りだすような、シュタイセーのないやつらばっかり」と見下し学校でも一人ぼっちな鬱屈した主人公が、一ヶ月前に精神を病んで学校から消えたクラスメイトのなつみに、メグマ祈呪術という人を狂わせる超能力を使う新興宗教「オモイデ教」に勧誘されてしまい、オモイデ教教祖トー・コンエを敬愛するなつみが気になる主人公は、オモイデ教に入ってメグマ祈呪術の素質を開花させていく……というもの。
 出てくる人物はかなり個性が強いです。とくに、ノイズ・ミュージックをやっていてそのままくだらない世界に苛立ちを感じながら、世界を変えられるメグマ術に惹かれて入信した関西弁の男"中間"や、その中間のバンド時代の相方で、後にオモイデ教の敵として現れる狂った男の"ゾン"は、中盤では主人公を明らかに食う勢いの存在感があります。一方で、ヒロインのなつみが敬愛するオモイデ教の教祖トー・コンエは、周りに都合の良い人材ばかりをあつめ、自身の居心地の良い歪んだ矮小な世界を維持しようとする卑屈で器の小さい人間として書かれているのも興味深いところ。この小説は、「主人公(ジロー)――なつみ――トー・コンエ」「主人公――中間――ゾン」という二つの人間関係で構築されていますが、それぞれがオーケンが経験した「若くして熱狂的なファンを持つバンドのボーカリストになってしまい、自分の発言に追従するファンを見て元々卑屈な自分が知らないうちに得てしまった影響力についての苦悩」と、「世の中への不満を過激なライブパフォーマンスとして発散していた、80年代後半から90年代初頭にかけてのバンドブーム期のアングラバンドマン達の生き様」をメグマ術という形で表現したものと考えると面白いです。
 相手を狂わせる超能力の素質を持つ自意識過剰な主人公、自分を取り囲む世界を憎む登場人物たち、周りを滅ぼす能力がありながら、オモイデ教の人間と敵対する相手のみにほぼ限られ話が進む狭い社会描写、と単純に見れば「なんだもう使い古された超能力バトル+セカイ系か」と思ってしまうかもしれませんが、この本が出たのは1992年、いわゆるセカイ系の代表作が出始めた時期より少し前なんですね。この小説がセカイ系の"元祖"の一つと考える人も少なからずいるようです。さらに当時は超能力や新興宗教のブームが到来しはじめた時代で、この3年後の1995年にオウム真理教が地下鉄サリン事件を起こしたことを考えると、当時のブームに乗りながら、その先の流れを予期していた凄い作品! といえるかもしれません。ちょっと褒めすぎかもしれませんが、90年代のアニメ系サブカルチャーに大きく関わっているのは間違いないので、少しでも興味があったらぜひ読んで欲しいです。角川文庫からでている文庫版で215ページと短いですし、バンドブームに関して簡単ながら語ったあとがきも面白いです。これを期に他のオーケンの小説も読みたいなと思うくらい魅力のある小説でした。

評価:
大槻 ケンヂ
角川書店
¥ 441
(1993-04)

不連続殺人事件 他

2009.09.03 Thursday

8月中に読んだ小説。

不連続殺人事件 坂口安吾 角川文庫
純文学の作家である安吾が書いた推理小説。安吾は『白痴』をちくま文庫の坂口安吾全集(一度借りたけど途中で返却)で、『桜の森の満開の下』を青空文庫で読みましたが、推理者は初めてです。
 あらすじは、終戦後の東京の田舎の豪邸に集められた愛憎渦巻く関係を持った作家・芸術家達が、次々に殺されていくという典型的な推理物。特徴的なのが、その集められた登場人物がみな変人であるということ。マンガにでも出てきそうなくらい、尖った個性を持つキャラクターばかり。しかも、それぞれがお互いに関係を持ったり離れたりを繰り返していて、誰がだれと関係があるのか分からなくなってきます。それが面白いのですが。いつものカタカナを多用した安吾の個性的な文章だけでも癖が強いのに、登場人物まで変人ぞろい。自分は安吾の文章が結構好きなのである意味マンガのように楽しく読めました。
 ただ、この作品の特性上リアリティには欠けますね。何で豪邸に招かれた人の中に犯人がいることが分かっているのに、第2、3の殺人が起こった後も逃げ出さないのか? とか、犯人の動機のこじつけ方はちょっと薄いというか納得しにくいんじゃ……など。犯人もあっと言わせるように意外な犯人ではないです。なので、いわゆる社会派が好きな人とか、あっと驚くようなトリックを期待している人にとっては期待はずれになりそうです。逆に、安吾本人が推理小説を「推理ゲーム」ととらえていたように(実際、この作品は連載されている途中に読者向けに犯人当てクイズが行われたようです)、そのトリックは合理的、それも複雑怪奇な推理小説的にある物理的トリックではなくて、登場人物、そして読者の心理を利用したものになっています。作中で登場人物に

「私はイギリスの女流のアガサ・クリスチイというのが好きです。ヴァン・ダインとかクイーンとか、無役に衒学で、いやらしくジラシたり、モッタイぶったりするから、気持ちよく読みつづけられない。」

と言わせているのも納得です。(ネットで他の感想をみたらクリスティのある小説と似てるという感想がありますね)
いまや古典の領域に入り始めてしまった上に、その作風ゆえ人を選びそうですが、昭和の雰囲気が好きな人、安吾の書くキャラクターが好きな人にはオススメできる一冊です。

ザ・ベスト・オブ・サキ機.汽 ちくま文庫
 まだ読みきっていませんが、途中の「乳しぼりへ行く道」までは読みました。(いつもどおり図書館で借りているので読みきらず返却ということがよくあります) サキは皮肉と幻想のまじった短編の名手として有名な人です。短編は僕も何冊か読んできて、無駄を省いた短い中に読者をはっとさせるような印象を与えなくてはいけないという点で、書くのは難しいだろうなと思っています。短編集を借りても印象に残っているのは2,3編あればいいほうかもしれません。サキはその点、まったく印象に残らないものと印象に残るものの差がはっきりしているような気がします。全体的には20世紀初頭のイギリスの田舎が舞台になっていて、その頃の貴族の暮らしが見えるものなかなか面白いです。
 読んだ中では、人間の言葉を喋れるようになった猫が招く喜劇の『トバモリー』と、病弱で内心に強い反抗の意思を持つ少年と彼が信奉する大イタチの話『スレドニ・ヴァシュター』が印象に残りました。続きはまたいつか次の機会に。

6、7月に読んだ小説感想

2009.08.05 Wednesday

小説とかそれなりに読んでるのに書いてないと忘れそうだし。
今日図書館にも行ってきたし、忘れないうちに書いておくし!
それにしてもずいぶんちくま文庫にはお世話になってるし(咲の池田風に)

夢野久作全集3(ちくま文庫)
自分の中でも定番になってきてるちくま文庫の夢野久作全集3巻目。五月末の時点では猟奇歌しか読んでませんでした。
短編の中でも著名な作品が多かった8巻と比べるとやや劣る気がしますが、初期の探偵小説風の作品も含めてバラエティに富んでいると思いました。10ページほどしかない短編も多かったので記憶に残ったものだけ。

あやかしの鼓
夢野久作がこの名義で最初に出した短編。
鼓の名人である主人公の独白で書かれていて、呪われている鼓に翻弄される一族を描く。ドグラマグラや〜地獄系と違って、探偵小説風で読みやすい。でも、言葉にしがたい緊張感はすでにこのころから発揮していて面白い。
押絵の奇跡
あやかしの鼓と同傾向の作品。この主人公の女性は後の久作の主人公達にだいぶ近い気がする。
童貞・鉄槌・けむりを吐かぬ煙突
だんだん狂って行く主人公と、男を翻弄する妖しい魅力を持った女性がメインの3作。こういう路線は久作の王道ですね。それぞれ年代こそ違えど狂気を宿した女性を書くのは久作の得意技。
霊感!
珍しく外国が舞台のお話。穢れを知らぬお嬢様とお互い瓜二つの双子が織り成す不思議なお話。とにかく久作は血縁(因縁)に関わる話が好きですね。
なまけものの恋
生来のなまけものである主人公が、金の為に始めた犯罪で出会った令嬢に惚れる話。珍しくちょっといい話。

やはり、というべきか方向性が似通った作品が多いです。しょっぱなの猟奇歌には度肝を抜かれるでしょうが、あやかしの鼓と押絵の奇跡は久作の作品の中ではわりと薦めやすい部類に入るのではないかと思いました。

こころ・道草 夏目漱石
ま た ち く ま 文 庫 か !
「そういえば高校の授業でこころやったなあ。あれは結末の断片的なところだけで全部を読んだわけじゃないから気になる」と思い立って借りてきました。結局、道草は読みきれず返してしまったのでまたいつか別の機会に。
教科書に載っていたのは第3章だけで、第1章と第2章ははじめて読みましたが正直結構だれました。最初の出会いが鎌倉海での海水浴ってのはなかなか面白い。というか、あらすじが分かっているのでどちらかというと当時の書生の暮らし、そして主人公の家庭事情のほうが目新しかったですね。あとは、先生の妻が思っていたよりくだけた人だったことくらいか。
前に書店で立ち読みした名作文学を切る! みたいな文庫本の中で、こころは名作とはいえない。先生が死ぬ理由も薄いし「明治の精神に死ぬ」ことを前提としたご都合主義的な話。とめっためたに叩かれてた記憶がありますが、なるほど、前半部のタルさと先生がなぜ明治の終わりに死ななければならなかったのかという理由付けはたしかに薄いかも……と思ってしまいました。そこは主人公の父が明治天皇が崩御するところと重ねることで解決しようと思ったようですが。先生とKとお嬢さんのくだりがやはりインパクトあっただけに……。

ターン 北村薫
 珍しく日本人のしかも最近の作家の本を借りてきました。なぜ北村薫だったかというと、実は自分と母校が同じで大先輩なんです。前々から興味があって、新しい方面に手を出してみようかと借りてみたら、なんとその3日後に直木賞を受賞されてびっくりしました。
 このターンは『スキップ』『リセット』とともに「時と人の三部作」として作られた3作の2作目で、これを選んだのは正直なところ一番短くて読みやすそうだったからという理由です。話は、主人公の女性版画家が交通事故をきっかけに生物の存在せず、必ず午後3時15分になると前の1日に戻ってしまう不思議な世界に迷い込んでしまうというもの。印象的だったのは二つあって、一つは文体というか語り口です。いきなり

君はスケッチブックを開いて、八角時計をいくつも描いていた。

という二人称から始まります。そして、

「……あ」
作品になりそうかな?
「うん、これはいける」

とその二人称の声に反応する人がいて、その声こそ主人公の女性だとわかる。では、この語り手の正体は誰なのか? それが物語が進むにつれてだんだんとそしてドラマチックな形が明かされてフィナーレにつながる。語り手と登場人物とのかかわりかたは、前に読んだカルヴィーノの「冬の夜一人の旅人が」でも工夫がされていて自分の理解の範疇を超えてしまったけど、ターンはもう少しシンプルに「なるほどこんな着地のさせ方をするのかあ」と素直に感心しました。もう一つは主人公。主人公の森真希が芯が強いけどみずみずしい魅力を持った女性で、とても好感が持てる応援したくなる人だと思いました。ここはデビューしたての覆面作家時代、自然に主人公の女子大生を描写したことから、20代の女性ではと勘違いされたという作者の描写力によるものだと思います。
今回はネタバレをしないように気をつけました。400ページほどですがさくっと読めるのでオススメします。ただ、作中の「ターン」(作中では「くるりん」と呼ばれている)のタネはSF的な仕掛けで明かされはしないので(理由付けはしてあって文庫版では巻末に作者が補足している)、そういうのを期待するのは間違いだと思います。また、昨日図書館に行ったところ直木賞効果なのか前は他の文庫版が8冊くらいあったのに、見事になくなってました。しばらくは図書館などで借りられるとは思わないほうがよさそうです。

「ゼーガペイン 忘却の女王」 感想

2009.06.28 Sunday

JUGEMテーマ:漫画/アニメ
JUGEMテーマ:読書

1週間近く前に買ったのに今頃感想です。

久しぶりに買った小説は2006年に放送されたSFロボアニメゼーガペインのノベライズ、「ゼーガペイン 忘却の女王」。
このブログ発足当初に感想を書いていた、あの放送から3年も経ったのだと思うとびっくりですが、まさか今更ノベライズされるとは驚きでした。
出版は朝日ノベルズ。どこかと思ったらキマイラとか出してたソノラマ文庫の吸収先なんですね。ってか潰れてたんだソノラマ文庫……。そもそもこのレーベルの存在すら知らなかったので、ずっと本屋を探していたのですが結局観念して店員さんに場所聞いちゃいました。その棚も端っこで正直分かりにくかったです。本屋の規模によっては入荷すらしていなさそう。
新書サイズで価格は940円とやや高め。表紙絵は幡池裕行(恐らく原案である老師の別PN)で、絵は表紙と最後のロボ設定画のみ。どうせなら絵もっとあってもよかったかな。

 肝心の内容は、本編とゲームの橋渡しをする外伝で、小説ならではのSF感とゼーガワールドの説明をかねていてなかなか雰囲気が出ていました。著者がゼーガのSF設定に携わっていた日下部匡俊だけあって、巻末の老師との対談でも語られていましたが、矛盾なく設定を詰め込めていたと思います。
 

話はとある崩壊寸前のサーバーに一人残っていた幻体である主人公クロウが助け出されるところからスタート。

アニメの主人公キョウはクラスメイトや幼馴染のカミナギがサーバーの中に一緒に残っていて、その舞浜の守るべき人々の記憶と永遠に4〜8月を繰り返す切なさが特に序盤の魅力だったことを考えると、クロウは既に序盤で自分以外の人間は生きておらず、セレブラムの母艦の一つルヴェンゾリに救出された際には名前以外の記憶を失っていて自分の存在意義を見出せず悩むのは、対比になっているなと感じました。
 

その後、ルヴェンゾリに回収された直後ゼーガタンクですぐ戦闘に向かうもいきなりセレブラムの死ぬ姿を見せ付けられ、ルヴェンゾリの他のセレブラントからはいい顔をされなかったりとクロウはかなり厳しい立場におかれてしまう。その中でドヴァールカーとの接触の際にガルズオルムの機体乗っ取りにあったクロウは、南極の放置された機動要塞のサーバーを発見してそこで記憶を失った謎の幻体レジーナと出会って帰還。懐いてくるレジーナに自分の存在意義をかさねるが、撃墜されたセレブラントの母艦コルデュアクスの救出戦で、レジーナがウィザードとして規格外の動きを見せたことから、他のセレブラント達にレジーナの存在は危険なものとみなされ、クロウも苦しむことになる。

ここでもアニメでは、サーバー内ではカミナギ、オケアノスではシズノ先輩という絶対的な精神的支柱となる立場の人が存在したキョウと比べて、クロウは心のよりどころが他のセレブラントに危険視されるレジーナしかないあたり、読んでいてストイックな展開だと思いました。また、アニメではサーバー内の出来事に重点が置かれていた分、忘却の女王だとデータを強奪しようとガルズオルムが機体乗っ取りを試みたり、通信は傍受される恐れがあるから直接の接触を重視していたり、南極に生産工場があってセレブラント側は必死に秘匿していたりと、かなりSFの要素が詰まっていてアニメしか見ていない自分からするとその舞台裏というか、SF設定は「おお、こんな設定になってたのか」と新しい発見で楽しめました。
 

アンチゼーガとの戦闘のあと、レジーナが元いたサーバーに一緒に向かったクロウは、記憶を復活させたレジーナがナーガによって試験体として様々な実験を受け最後に捨てられたことを知る。そして、崩壊するサーバーから脱出すると、何故か元いた世界とは違う世界に出現してしまい、なし崩し的に異世界でのセレブラントの最終作戦に参加することになる。レジーナによってアンチゼーガのような性質を持つよう進化したスーパーガルダを駆ってマインディエを打ち破り、元いる世界へ戻るポータルにたどり着いたクロウは、ナーガを追って高次元の世界へ旅たつレジーナと別れ元の世界に帰還し、サバト攻略への最終作戦に参加するところで物語は終わる。

SF小説やアニメでの量子力学といえばパラレルワールドを理由付けるための定番ですが、ここでパラレルワールドに移動するのは正直びっくりでした。自分はやったことないのですが、前々からゲームとアニメでは設定が違うことでファンの間でその矛盾について議論のネタになっていたのですが、なるほどこういうつなげ方で解決するのかと納得。また、ナーガの本質がテレビ本編だと良く分からずモヤモヤしていたところがあったのですが、小説で書かれている天才としての姿、無慈悲なまでに他人に無関心で、「この世に存在する全てのものを見、知る」というキャラクター像をようやく把握できました。ハッピーエンドとは言い切れないけど、希望が見える終わり方も悪くなかったと思います。

 巻末にある著者日下部と原作者"老師"こと伊藤岳彦の対談はある意味もう一つの本編でした。内容はゼーガ企画の立ち上がった経緯から、明かされなかった裏設定に触れていてファンなら是非読んでおきたいところです。実は50話の企画だったこともあるとか、SF設定・哲学的なネタをいかに分かりやすく落とすか、世界観(死生観)を魅力的にするかなど、製作側ならではの話題は面白かった。

 小説を読みおえて、ゼーガペインの世界観は自分が考えていたよりも大きくてかなり大規模な企画だったんだなあと感じました。こういうしっかりしたバックグラウンド(SF設定・世界観)があったおかげで、アニメの26話もギュウギュウ詰めながら、自分も放送当時引き込まれたような魅力的な作品が生まれたんだと思います。
 ただ、同時に感じたのがゼーガの根本的な欠点。1つはあとがきで2人が触れている「世界観への拒否感」で、人がデータ化されその中で自分が虚無的な存在であることを自覚して生きる、その死生観。自分は結構すんなりと受け入れられたのですが、確かに生理的に受け入れられない人もいるのかもと思いました。もう一つは世界観の分かりづらさ。これも触れられていましたが、デフテラ領域はアニメで見ている側からするとピンとこなかったですし、何よりナーガの存在がとにかく分かりづらかった。オルム・ウィルスによって人類を死滅させ量子サーバーに追いやり、ガルズオルムを作って世界をつくりかえる。その目的が「この世に存在する全てのものを見、知る」というのは感覚的に分かりにくいですし、その為に高次元を俯瞰したり量子サーバー内に多数のデータとして溶け込み世界そのものと同化してどこにでもいる存在になった、というのも、諸悪の根源である"ラスボス"キャラとしてはとらえどころが無さ過ぎると思います。善悪の二元論がいいとは思いませんが、今回の小説を読んでようやくナーガについては納得がいったところで、アニメだけではちんぷんかんぷんなままの人が(自分も含めて)たくさんいたと思います。
 それでも、欠点を抱えながらも放送3年が経ってノベライズがなされるくらい魅力のある作品なのは間違いありません。対談の最後にこの後のゼーガの企画予定はありませんと述べられていますが、続編でなくともこの企画を生かした後継企画をぜひ老師とサンライズには作って欲しいです。あと、アニメだけでよくわからないところがたくさんある人は是非このノベライズ買ってみて欲しいです。

評価:
日下部 匡俊
朝日新聞出版
¥ 987
(2009-06-19)